「ここ(静岡)でWINDSの作品見たから、もうわざわざ神戸へ行かなくてもいいね」。そんな嫌味なことをWINDSさんに言っておきながら、6月10日の見学ツアーにはきっちりメンバーに加わっていた尾本のてっちゃん。 やはりてっちゃん抜きでは、見学ツアーは考えられない。なぜなら、行く先々で毒気を撒き散らし、レポートネタを提供してくれるからだ。書き手としては、最もありがたい存在といえる。 今回のメンバーは、私(斎藤)と水間一飛兵、そして尾本準会員の3名である。車は水間君のビッツに搭乗となり、そのスタイリングから『秋水』と命名された。ちなみに車番は『343』という、いかにも日本機マニアな選択だ。 この日は、朝っぱらからつまづいた。 私は目を覚まして、時計を見るなりあわてふためいていた。 8時15分!! 「いかん!30分には、みんなが来る!」 顔を洗い、大慌てで服を着替える。 そんな様子を見ていたヨメが私に一言、「そんなにあわてんでも、あと15分あるじゃない」。 「アホか!尾本のおっさんは、いつも気分がハイになっとるから、10分くらい早う来るんじゃ!あのおっさんは子供と同じやけんな!」。 そう言い終わらないうちに、『ピンポーン』! 「うああ!来よったがな!」私はあわてて玄関ドアを開ける。 「あ、まだ準備してるの?じゃあ待ってるから、ゆっくり準備してね」と言うやいなや、すたこらと私の工作部屋に勝手に入っていく。 『まずい!いつもなら仕事場の事務所で足止めを食らわしているのに、突然ワシの部屋に入られたら、秘密の資料を見られてしまう!』。そう思った私は大慌てで準備をすまし、工作部屋に行くと、すでにてっちゃんは書棚の洋書を物色し、めぼしい本を見て眼がうつろになり始めていた。特にてっちゃんの好きそうな、派手塗装のドボアチンD520を見られたのが痛かった。 「うああ、すごいなあ!こんなのがあるの?・・・ねえ、今日この本貸してくれない?ボクが作ってあげるから」と、しつように迫る。青ざめる私。「じゃかましいわ!!わざわざ、この図面1枚のために買うたのに、なんでおまはんに貸さなあかんのんじゃ!!」。 「あっ、そう。じゃあ、これはいいのかな?」 次々と目ぼしい本を広げて私に見せる。 ここ何年か、入室を拒みつづけてきた工作室に強引に入り込まれたショックは大きく、その後出発まもなく財布を忘れたことに気づくというミスまで誘発した。改めててっちゃんの恐ろしさを知らされた朝だった。 当然、朝メシを食っていない私は、淡路SAでモーニングサービスと行きたかった。 「水間君、メシ食うとるんかい?」・・「いや、まだです」と操縦桿を握る水間君。 「てっちゃんは?」。 「ボクは食べてきた」。「ああ、そうなん?」。 「うん、バナナを1本!」 私達二人は、思いっきりフロントガラスに頭をぶっつけていた。 「子供か!!おっさん!!」。 WINDSさんの展示会は今年が二回目だ。小世帯ながら展示会のリーフレットなどまで用意し、万全のもてなしだった。作品のレベルは皆さん高く、スケビなどの作例を手がける会員さんもいて、見学するたびにいい勉強になる。特に今年のテーマは、『零戦』なので日本機ファンの私と水間君はごきげんである。会場ではバーズのみやちゃnさんとも再会。銀翼会さんや和歌山ノンフライトクラブ、そして翔バナイの勝川さんらとも顔を会わす。当会の久保氏は今回家族サービスを兼ねて別動隊で来場、さっそくノートパソコンを開けて、TMCのHPとりわけ18禁の画像を公開していた。 ここで、WINDSさんに一言お詫びを申し上げねばならない。なにせ田舎者の三人なもので、見学もそこそこに模型店巡りに走ってしまったことだ。 まずは西宮の『ガネット』だ。店長の大木さんともすっかり顔なじみになっているので、大きな顔で店内を物色する。ひととおり見たあとレジで清算。気持ちはすでに次の店『ホビーランド』に向いている。 「あ、お釣りを忘れていますよ!」と大木店長がこちらを向いて言う。 すかさず尾本てっちゃんが「ああ、そんなのいいですから取っといて下さい」と言い返す。 「おかしいなあ、ワシ釣り銭もろたんやけどなあ。あの釣り銭て、てっちゃんのとちがうか?」私がそう言うと、ご当人急に顔色変えて走り出した。 「あ、それってボクのだったの?すみません、もらいます!」とすばやく大木店長から、金をふんだくっていた。本当に友人想いのいい性格だ。あの性格で、過去何人の友人をなくしてきたことか。 『ホビーランド』は何度行っても道に迷うが、今回は一発で到着。 環状線の阿波座で降りるとベストということを、会員一同肝に命じていて欲しい。あんまりすんなり行ったので、てっちゃんがまた偉そうにいう。「ね、ボクの言うとおりにしたら、間違いなく来られるでしょ」。 なにをぬかすか!おっさん!何年か前、大阪市内の展示会に来た時は、尾本氏がハンドルを握り、他会員が話に夢中になっている間に名神に迷い込んで、気がついたら京都まで行ってた事があったのを忘れへんぞ! 『ホビーランド』では、私はまた性懲りもなくガラスケースの中にあったLFモデル1/72・アエロノーティカ・ロンバルダ AR4というややこしいキットを購入。聞いたこともないチェコのレジンキットだが、そこそこの出来で、店長の「ああ、これが最後の一個でんねん」という言葉に満足する。 ロンバルダとは正式名称アンブロシーニAR4といい、無線誘導の飛行爆弾とでも言うべき機体で、離陸の時のみパイロットが操縦し、水平飛行に移るとパイロットはパラシュートで脱出、その後は無線誘導で目標に体当たりする。主尾翼ともにテーパーのない無骨な四角い翼が付き、まるでイタリア版『剣』とも言うべき機体だ。こんなもんが、キット化されるとは恐ろしい世の中ではないか。 恐ろしいといえば、てっちゃんがレジ・カウンターの上に置いたレジンキットは、我々だけでなく、当の店長さんまで絶句した一品。 ベルギーのResi Castというメーカーで、1/35 Ford T draisine 「Somme1916」。 実車はどうもT型フォードを軌道運搬車に改造したという超変わりだねアイテムらしく、ホビーランド店長いわく、「ええっ!これを買わはりますの? こんなもん売れんやろ思いながら一個だけ仕入れたんですわ。せやけど世の中には、こんなモン買う人もいてはるんやね・・・・・・・・・・ほんまに買わはりまんの?」 8800円を払いながら、てっちゃんは「けっ!高いキット買ってやって、こんなにボロクソに言われるか?」と愚痴を目いっぱいこぼしていた。 「何ゆーとん!尾本はん!店長さんは誉めてくれとるんぞ。こんなけったいなキットを見つけるあんたは、真のマニアじゃ!たいしたやっちゃ!そう言うてくれてるんやないか」。 私は必死にフォローしたが、やっぱりあのおっさん、ただもんとちゃう!鉄道模型のような、AFVのような、車のような。あんなアイテムを作る奴が他におるだろうか。 「おるやないですか。吉本さんが・・・・」。水間君がボソッとつぶやいた。 そうやった、他にもおった。恐るべしTMC・AFV班。 キットはおびただしいレジンパーツで構成され、線路は一発抜きながら、素晴らしいディティールだった。 さすがはバーリンデンの国・ベルギーである。 だけど正直ゆうて、あれはてっちゃんにはとても完成が望めんと思うんやけどなあ。 展示会と買出しツアーを満喫した三人は、夕闇迫る湾岸線を一路神戸経由で帰路につく。 「湾岸線はロマンチックだね、水間君」。後部座席のてっちゃんがシート越しに水間君を抱きしめる。 「うああ!何するんじゃ!放り落とすぞ!おっさん!」 ハンドルを切りそこねそうになった水間君は、絶叫しながら彼の手を振り払おうともがいている。 「水間君、今度は女の子と走れよな、ここを・・・・・」。 助手席の私は、せめて彼だけはまっとうな人生を歩んでくれと祈らずにはいられなかった。 6月の夕日が高揚したてっちゃんの顔をやさしく照らしていた。 その満足げな顔を横目で見やりながら私は、「あかんわ。このおっさん」とつぶやいたのだった。
飛行機の箱絵写真 私の買ったロンバルダAR4。イタリアの無線誘導爆弾機。ドイツの機載誘導ミサイルに比べ、あんまりなスタイルと性能に脱帽。
縦写真2枚 てっちゃんが買った珍妙な線路上を走るT型フォード。小さなキットにもかかわらず、すごいパーツ数だ。店のご主人さえ、買った尾本氏をただもんではないと絶賛。