見るからに怪しさのただようカメラだ。 一見ライカ2型のようだが微妙に違う。ErnstLeizの刻印が入っているがウソくさい。しかもドイツ空軍仕様だ。そもそもこんなゴールド仕上げなんてあったのか? とまあ、疑念だらけのこのライカ、ロシア製の偽物であります。わかってて買ったので騙されたという気持ちはありません。むしろ、このようなけったいなライカ初心者でもあきらかに偽物と分かる偽ライカを堂々と生産販売するロシア人の旺盛なギャグ精神に敬意を表したいぐらいです。 このコピーライカ、中身はフェトかゾルキーでありましょう。 数年前、軍用ライカとかゴールドライカが人気を拍した時期がありました(その余韻はいまでも続いていますが)。そういったレアアイテムをねらうコレクターだまし(あるいは受けねらい)用に生産された中の一つがこのゴールドライカでありますね。ライカ人気に乗じてロシア観光土産用に生産したと言う話もあり、モスクワなどで100ドル前後で売られたようです。それが日本人や欧米の方々にけっこう売れたといいますから、いまだに供給されている訳です。 偽物のベースとなったのはフェトとゾルキー。この二つはライカ2型をコピーしたもので、私の記憶に間違いが無ければフェトの方は1935年から生産が始まり、ゾルキーはフェトの技術指導で戦後の1948年ごろから作られたものです。加工精度はゾルキ−の方がよく(極初期のフェトがベストだという意見もありますが、現時点では古すぎてどうにもなりません)、偽物もゾルキーベースの方が良くできています。(FEDはソビエト秘密警察「チェカ」の創設者F.E.Dzerjinskiの略、生産地はウクライナ。Zorkiiはロシア語で目ざといという意味。生産工場はKMZ(クラスノゴルスク機械工場)です。今、手元に資料が無いためいずれ詳しく書くことにします) →ロシア製コピーライカ一覧表 本家よりも大量生産されたフェト、ゾルキーなのですが、生産終了からかなりたち、最近はロシア本国でも良好な個体が少なくなってきています。初期の偽物はゾルキーなどをよりライカらしく仕上げ(パッと見た目は本物と見分けがつかないぐらい良くできていた)、精度も結構良いものがありました。ところがベースとなる個体が減少する中、今ではメチャクチャな状態になっています。 また、偽ライカが売れるということで複数の業者?が参入、生産しているという話もあり、再組み立ての技術差などで当たり外れが極端になってきているようです。 この金ピカ偽ライカも複数のフェトあるいはゾルキーのパーツを掻き集め、再組み立てしたもののようです。金ぴかにしているのはゴールドライカっぽく見せる意味もあるのでしょうが、くたびれたカバー類をメッキで誤摩化していると見て良いでしょう。良く見るとトップカバーにヤスリがけした後があります。相当荒っぽい下地処理です。ベースとなった丸ッこいフェトあるいはゾルキーのトップカバーをライカらしく見せるため、エッジをたてたのかもしれません。 オリジナルのライカとはその質感がまるで違います。 このカメラにはLuftwaffeの刻印とナチスドイツのワシのマークが刻印されています。ここまでやるとちょっとやり過ぎです。持込んだロシア人業者は「かつてドイツ空軍で使用されたもの」と売り込んだそうですが、このような刻印は本物には存在しませんし、2型の空軍仕様は私は聞いたことがありません。3c型がドイツ空軍ではメインでした。 刻印については本物はLuftwaffen−Eigentum(空軍所有)とファインダー横に刻印されています。またシリアルナンバーの前にはFI(Fliegerisches Graete=航空機材)とコードレターがあるのが普通です(グレイ仕様のライカには付いていないものもある)。 まあ、より凝ったものとせっせと刻印をいれたのでしょうが、やりすぎることによって失敗しています。ゴールド仕上げにしたのもいけません。空軍仕様に金ぴかはありませんから、笑うしかありませんね。こつこつとフェトやゾルキーをばらして金メッキし、刻印まで打ちかえたロシアの(多分、家内工業的雰囲気の場でせっせとつくってるんだろうな?あるいはロシアならではの工場総出で作ってるのかも)職人さんご苦労様でありますね。 さて、この偽物ライカ。実用に耐えるのでしょうか?レンズはフェトレンズあるいはインダスター(エルマー50ミリF3.5のコピーですがバリエーションが多数あります)。このレンズ当たり外れが大きいと言われていますが、どうなのでしょう。この金ぴかライカのレンズは一度分解し再メッキを施していますので狂いが出ている可能性がありました。 ボディの方もレンズマウントまで金メッキを行うという凝りようなので一抹の不安がありましたが取りあえずテスト撮影してみました。 結果はボディ側に問題がありました。まずシャッター速度が表示の半分以下であることが判明しました。たとえば60分の1は30分の1くらいしか出ていません。空シャッターを切った時、あれっと思ったのですが案の定そうでした。外側は化粧直ししてますが、中身は何もやっていないことは間違いありません。フィルム圧板もへたってしまい、ピント面が少しずれています。圧巻はフィルムスプールで素手では抜けませんでした。滅茶苦茶固いのです。ここは手持ちのフェトとトレードし、解決しました。距離計は上下がずれていますが、ちゃんと動きます。レンズは全く問題なし。曇りや傷も無いし、カビの発生もありません。オリジナルにはない、コーティングが施された美しい玉であります。絞り羽もちゃんと動いています。ボディに問題はかなりありますが、ヤバい所さえ分かればこっちのものです。そのヤバい所を考慮して撮影すればよいわけです。全体が金ぴかのため外へ持ち出すとけっこう受けました。ぴかぴか光るためけっこう目立ちます。いつもモデルをお願いしているAさんも一目見て大笑い。カメラなんだけど金ぴかで玩具っぽいのが良いそうです。このカメラ、なかなか楽しめるものになりそうですね。(*文中写真は金ぴか偽ライカによるファーストショット。いけまっせ!このカメラ) |
Photo001 MissA偽ライカを見るの図 |
Photo002 サハリンあたりの線路のように写った! |
Photo003 このレンズはモノクロ向きですな。 |