さらば静岡!徳模連隊一路郷土ヘ |
合同展示会場を出た我が連隊隊員を載せた輸送機は一路、進路、西。徳島へと機首をむけた。途中、これまで何度かあった事故や大渋滞にも合わず、快調に故郷へと飛行を続けた。機内では相変わらずの馬鹿話に花が咲き、特に2番機はもともとアホな話が大好きな隊員が集中したため、長い飛行時間にもかかわらず、笑いが絶えなかった。 京都を過ぎ、大阪に入る頃、2番機に1番機より入電。「阪神高速渋滞ノ情報アリ、コレヨリ中国道ヲ経由、徳島ニ向フ」 「中国道へ迂回するらしいぞ。三好三飛行兵、進路を誤るな!」と斎藤分隊士 「順調にいけよるから、このぶんだと日が変わらないうちに帰還できるな」 2番機の中では故郷近しの空気が流れ、その安心感からますます馬鹿話しがはずんだ。 ところが、そのころ、はるか先を飛行していた(乗機のパワーにものを言わせ、おまけにスピード狂の飛行兵が交互に操縦したため、20キロ以上先行していた)1番機にとんでもない事態が発生していたのであった。 |
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1番機の悲劇は明石海峡上空で発生した。順調に飛行を続けていた1番機に白と黒に塗り分け派手な赤ランプを点けた敵機が奇襲を仕掛けたのである。 「我、被弾ス」の送信を最後に1番機は消息を断ったのであった・・・・。 ところが2番機はその悲痛なまでの送信を受信していなかったのである。 →1番機の消息についての詳細はこちら |
我 燃料尽キ帰還ハ困難ナリ |
1番機の悲劇を知らず、2番機は飛行を続けていた。 機内の馬鹿話は佳境に入り、話題は静岡でも一部盛り上がったピ◯ク◯ーターであった。今、流行っているらしいとのことで、当部隊でも事業化出来ないかという阿呆な話題であった。技術的には当部隊で製造は可能である。問題はアイテムだというところまで話は進んだ。 「可愛らしいんやったら、どこでも作るやろ?うちがやるんやったら、特大サイズとか、ちょっと特殊なのをやらんといかんな」 「名前がヒンデンブルグとかポセイドンとかの」 「苦しい、腹が痛い〜」とんでもないアイデアとネーミングに隊員は笑い転げていた。 機は明石海峡を越え、左に淡路SAが見えた。あと1時間で徳島だ。 「燃料がありませんっ!」 突然、三好三等飛行兵が叫んだ。「なんやて!」後部座席から斎藤分隊士と吉本軍曹が覗き込む。 燃料計の針はぴったりと横になってしまっている。 「貴様ぁ〜何をしとったか!」斎藤分隊士の怒号が響いたが後の祭りである。 「ここから燃料補給は、徳島まででけへんぞ」 「こいつは航続距離が短いんじゃ」 前川航法士が計算すると燃料残量はあと50キロ分ほどしかない。徳島まであと80キロはある。 それまで馬鹿話しに盛り上がっていた機内はシーンとなり、隊員の顔は青ざめてしまっている。 「空調をとめろ!エンジン回転を3000まで落とせ!」必死の形相で操縦悍を握る三好三等飛行兵に矢継ぎ早に指示がとぶ。 「警告灯がつきましたっ」と三好三等飛行兵の引き攣った声。 「これはヤバイ!冗談ではすまんぞっ!1番機に打電!」分隊士が絶叫する。 「ワレ ネンリョウ ツク キカン コンナンナリ キュウジョ モトム」 必死の思いで送信すると返電 「ワレ コウゲキヲウク キュウジョ コンナンナリ ジリキデ ヒコウセヨ ヤマウエキョウチャン」 「あかん!1番機も被弾しとるがな!」返電を聞いた2番機乗員は覚悟を決めた。 「重いものから投下せよ!機体を軽くしろっ」分隊士の命令で視線が一点に集中する。 そこにはドロップタンクこと尾本準会員の姿があった。 「非常事態である。哲ちゃんは次のバス停で下車し、早朝、自力で帰られたい」吉本軍曹の冷たい声。「ドロップタンク付けたままでは帰還でけへんからな!」 「スタンレーの魔女じゃあるまいし、大丈夫だよ!きっと帰りつける」哲ちゃんはそれだけは勘弁してくれと懇願した。 「飛べるところまで飛行します。見捨てるのはやめてくださいっ!」三好三等飛行兵からも涙声の懇願があり、、ドロップタンク投下はどうにか避けられた。しかし「最後には覚悟せよ」と哲ちゃんには告げられた。 「翼よあれが徳島の灯だ」「帰ってきたぞ」「万歳、万歳」機内に喜びの声が響いた。 しょぼい明かりが見えだし、よろよろと横風にあおられながらも、なんとか大鳴門橋を通過、ここまで帰れたらあとはどうにかなる。 ほっとしたが、その後24時間営業のスタンド発見まで2番機の隊員はほとんど生きた心地がしなかったのであった。 「来年からは三等飛行兵の飛行は禁止じゃ」分隊士の帰還後の言葉である。 |
燃料ガ切レツツモ無事帰還シタ2番機 |
双方ノ無事帰還ヲ祝シ握手スル1、2番機操縦員 |